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福岡高等裁判所 昭和48年(ラ)83号 決定

抗告人 片山哲三

右代理人弁護士 倉増三雄

主文

一、原決定を取消す。

二、本件を福岡地方裁判所へ差戻す。

理由

(抗告の趣旨と理由)

本件抗告の趣旨は「原決定を取消し、更に相当の裁判を求める。」というのであり、その理由は別紙記載のとおりである。

(当裁判所の判断)

一、一件記録によれば、本件抗告に至った経過は次のとおりである。昭和四五年七月六日株式会社親和銀行は株式会社銀座商会巨人(代表者片山哲夫)を債務者、宮崎和枝を物上保証人として同女の所有する福岡市博多区祗園町一九四番(旧同町一三番二)宅地一三四・五一平方米と同地上建物につき設定されていた元本極度額金三〇〇万円の根抵当権にもとづき不動産任意競売の申立(原審昭和四五年(ケ)第一七九号事件)をなした。手続進行中に、右地上建物は昭和四〇年頃焼失し現存しないことが判明して競売申立が取下げられたが、宅地については一平方米当り金八万五五〇〇円総額金一一五〇万〇六〇五円と評価され、最低競売価額が金一一五〇万円と決定されて数回の競売期日をかさねたのち昭和四八年六月一四日抗告人が代金六〇〇万一〇〇〇円の競買申込をなして最高価競買人となり保証金六〇万一〇〇円を納付し、競落許可を待つばかりとなったところ、同月二〇日の競落期日において前記宮崎和枝から異議申立がなされた。その理由の要点は、前記土地は公簿上一三四・五一平方米(四〇・六九坪)であるが、実測の結果二二五・三八平方米(六八・一八坪)であることが判明した、このことは昭和四〇年頃焼失した地上建物の一階床面積が二〇五・六八平方米(六二・二二坪)であったことからも容易に推認されるところであり、したがって前記土地の公簿面積は誤りというほかはないが、これを基礎として競売期日公告がなされているのであるから、かように不動産の表示と実測との間に著しい相違が存する以上(本件では実測面積は一・六倍に達する)、結局民訴法第六五八条の不動産表示の要件を欠くものというべきであるし、また、その評価も昭和四五年一〇月一二日の評価時から既に二年半を経過した現在では全く妥当を欠くものとなっている、すなわち評価時一平方米当り金九万円の評価は現在少くとも一平方米当り金二五万円ないし金三〇万円をくだらないものとなっている事実に鑑みれば、競売期日の公告に正当な最低競売価額を記載しなかったことに帰し、結局民訴法第六七二条第四号に該当する、というものであった。これに対して原審は前記異議申立人提出の疎明資料を検討して、前記宅地は公簿面積は一三四・五一平方米であるが、実測面積は二二五・三八平方米に達し両者の面積には著しい相違があり、かかる相違を無視して公簿面積によった競売期日公告における不動産の表示は不適法であり、且つ、その最低競売価額も不動産面積の変動数量に応じて是正さるべきところ、その変動額も相当性の範囲を逸脱しているので適法とはいえないとして競落不許の決定をなしたので右原決定に対して本件即時抗告の申立がなされたものである。

二、しかしながら≪疎明省略≫を参酌すると、昭和四〇年頃焼失した前記家屋の一階床面積二〇五・六八平方米(六二・二二坪)の敷地は前記福岡市博多区祗園町一九四番(旧同町一三番二)の土地のみならず同町一九一番(旧同町一二番三)の宅地三九・九九平方米(一二・一〇坪)が含まれており、若干の縄延びの存することは認められないではないが、いずれにしても異議申立人の主張した如く一九四番一筆の土地上に建築されたものではないこと、一九一番の宅地については昭和四二年中に四宮寅四郎、同正信を経て前記片山哲夫の息子である同隆之名義に登記もなされているが、これは片山哲夫が昭和二〇年頃、地上建物と敷地を一括購入したため二筆の土地となっていることに気付かず、その後一九一番については登記洩れの形になっていたことが判明し前記の如く息子名義に所有権移転登記を経たので一九一番の土地については株式会社親和銀行の金三〇〇万円の担保は附されていないこと、また、当初の地上建物は昭和二一年に焼失したので前記片山哲夫はその焼跡に三〇坪位の建物を建築したのち順次増築をかさね昭和二七年頃には隣地の一部を地上建物と共に所有者中村良一より賃借したうえ増築建物とあわせてパチンコ店を経営してきたが、昭和二九年頃に金繰りに困り前記土地建物を宮崎和枝に譲渡したところ、地上建物は前記の如く昭和四〇年に焼失したので、その後中村良一所有地も含めた土地上に軽量鉄骨造スレート葺二階建の遊技場兼居宅が建築されたこと、前記一九四番と一九一番両地の実測面積については前記異議申立人である宮崎和枝提出の野見山繁信測量図面と抗告人提出の成吉徳太郎測量図面の二つがあり両者は面積において六坪余の開きがあるが、野見山図面は昭和四〇年の火災直後に片山哲夫が指示して測量させたものであり、他方成吉図面は更にその後近隣土地関係者中村、片山、村上らの立会を得て字図と照合して測量されたものであることが疎明される。

三、右の事実からすれば本件競売申立の目的土地である前記一九四番一筆の土地の実測面積が二二五・三八平方米(六八・一八坪)であるとする前記異議申立人(宮崎和枝)の主張は直ちに採用されないことは当然であるが、さきの実測の事情からすれば成吉図面が正確であるといわざるを得ないし、また、昭和四〇年の焼失家屋の床面積をもって前記一九一番と一九四番両地の実測面積の規準とすることは前叙の事情からして適切ではないといわねばならない。

成吉図面によれば右両地番の土地実測面積は合計六一・五三坪であって両地の合計公簿面積五二・七九坪に比して八・七四坪の縄延びがあるが、これを両地の公簿面積により按分すれば本件競売申立不動産である一九四番の土地についての縄延びは六・七三坪(二二・二〇平方米)に過ぎないことが計数上明らかである。もとより競売期日公告における不動産の表示はでき得る限り正確を期すことが望ましいことではあるが、右程度の面積の相違をもっては、いまだ競売手続を不適法ならしめる瑕疵とはならないと解するのが相当である。また、評価の点についても昭和四五年一〇月一二日付でなされた評価額と現在の評価額の間に差異のあることは当裁判所に公知の事実であるが、順次手続の進行に伴い低減されていった最低競売価額と現在の評価額の相違をもって直ちに適法な最低競売価額の記載がないとして競売期日の公告を違法ならしめるものとはなし得ないことは多言を用いるまでもないといわねばならない。

四、以上の次第で、限られた資料からして止むを得なかったとはいえ競落不許の決定をなした原審の判断は相当でないから、これを取消すべく、なお、爾後の競売手続の履践の必要を考慮して、本件を原審に差戻すこととする。

よって主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 佐藤秀 裁判官 篠原曜彦 裁判官麻上正信は海外出張につき署名押印できない。裁判長裁判官 佐藤秀)

〈以下省略〉

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